東京地方裁判所 昭和24年(ワ)4331号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事実)
原告は被告からその所有の土地家屋を買受けたが、約定の引渡期日が経過しても被告が引渡をしないので、催告の上契約を解除し、前渡金等の支拂を求めるとともに、買受物件の契約價格と解除当時の時價との差額を、被告の債務不履行に因る損害として請求した。原告は時價を算定するについて、買受物件を木造家屋鉄筋コンクリート造家屋、附属施設宅地に分析し、家屋及び附属施設について日本銀行発表の東京卸売物價指数中の建築関係材料の指数と経過年数による減價率とを基準とし、宅地について比隣の地價の昂騰率を基準として、それぞれの價格を算定したものの総和であると主張した。
(判斷)
判決は時價算定方法についての原告の主張を排斥し、つぎのように説示している。曰く、「家屋及びその附属施設は人が一定の目的のために多くの材料を一定の地上に理想的に結合構成して創造した特定物であつて、各自個有の使用價値を有するとともに、遂には朽廃してその存在を失うものであるから、その價格は個々の構成材料の價格を單純に加算して決定すべきものではない。勿論、材料の價格がその價格決定に重要な関係を有し、特に、新築家屋にあつて材料の價格が決定的の要素となるべきことは見易い道理であるけれども、その漸く古びて家屋及びその附属施設としての壽命が定まり、または、その樣式が旧式となり、更にその環境等にも変化を見るに至つて、その價格決定の重要々素が材料から経過年数、樣式、環境等に移行することもまた疑のないところである。本件について見るに、鑑定人××の鑑定の結果によれば、本件家屋は二十数年前の建築にかかるものと認められるが、そのしかるとき、本件家屋及びその附属施設の時價が材料の價格によつてよりもむしろ経過年数、樣式、環境等によつて決定さるべきものであることは前説示によつて明かであろう。しかして、かような見地に立つて決定さるべき時價は特別の知識経驗によつてこれを探究する外はないから、本件家屋及びその附属施設の時價は、原告主張のような方法によつて究明することを止め、鑑定の結果に従つてこれを知るべきものといわなければならない。……土地はこれが更地であれば、一つの土地とその比隣の土地はその條件に大差のない限り相近似する地價を有すべきも、その土地の上に特定の施設が存在してその用途が限定せられるに至つては地價近似性の原則は大いに修正せられ、地價はその用途の差異によつて高低を生ずるのであり、その地上の施設が家屋のような不動のものでその用途を変更することが容易でないような場合には益々然りといわなければならない。前示××の鑑定の結果によれば、本件宅地が家屋の敷地であることは明白であるが、しからば、右宅地の時價を漫然比隣の土地の價格と比較して決定することは妥当ではなく、その時價もまた地上の家屋の時價の場合と同樣に鑑定によつて決定するを相当とする。……最後に本件のように家屋並びにその附属施設と敷地について一括売買が行われ、売主がその債務を不履行したため、買主が契約價格すなわち代金と時價との差額を損害としてその賠償を求める場合に、売買物件の各個の時價を主張することの可否について考えて見るに、一括売買はその個々の物件の評價に対する各当時者の評價の相違を克服してその代金の額を合意するものであるから、損害賠償の額を算定する場合に立ち至つても、その額は代金決定の場合のように全体の時期によつて主張すべきであり、個々の時價による主張は許されないものと解するを相当とする。……」と判示。なお、本件においては、鑑定の結果解除当時の時價が契約價格(売買代金)に及ばなかつたことが認められ、原告の損害賠償の請求は棄却されている。